大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪家庭裁判所 昭和39年(少ハ)13号 決定

本人 T・N(昭一八・一一・二四生)

主文

本人を昭和四〇年三月三一日まで、医療少年院に継続して収容する。

理由

(1)  本件申請の要旨は、本人は(昭和三八年四月一日大阪家庭裁判所において医療少年院送致の決定を受けて京都医療少年院に収容され)昭和三九年三月三一日少年院法一一条一項但書の期間を満了したが、病気治療中のため同年四月二日付で同日から向う六ヶ月間収容を継続する旨の決定を受け収容中のところ、歩行失調のため社会生活を営むことが未だ困難な状態であり、更に収容を継続して療養を続ける必要が認められるので、同条二項により再度の収容継続を申請すると言うにある。

(2)  ところで少年院法一一条の規定の趣旨は本来少年保護の目的に立脚するものであるから、同条二項の実質的要件を充足し、かつ在院者の保護の目的を全うするために必要なかぎり、同条四項により二三歳に達するまでは繰り返して収容継続をなし、保護の期間を延長することを許すものと解するのが相当である。

(同条の一項、二項および八項の文理上は収容継続は同条五項の場合を除き一回かぎりとする趣旨に解すべきかの如くであるが、そう解すると同条五項が適用されるのはたまたま当初に同条四項の期間を最大限に定めた場合にのみ生ずることになるのみならず、その場合にかぎり二六歳まで収容される可能性が生ずることになり、その他の場合に比し著しく均衡を失することとなり不合理である。

また、同条二項は在院者の犯罪的傾向がまだ矯正されていない場合のほか、心身の著しい故障の場合にも収容継続を認めるのであるが、この場合収容継続を一回にかぎるとすると、勢い予測困難な将来のことも考慮して比較的長期の収容期間を定めざるをえないことになるのみならず、一度定めた期間内に心身の故障が回復せず、あるいは悪化した場合にも絶対に収容継続ができないことになつて保護の適正を欠くことになる。むしろ当初必要最少限度の収容継続期間を定め、その満期時に更に裁判所において必要性の有無を慎重に判断したうえ、必要がある場合には更に収容を継続することこそ保護の目的に副うのみならず収容継続の手続と収容期間を綜合して考えると、人権保障の点からみても収容継続を一回かぎりとする方が人権の保障を厚くするものとは必ずしも言えない。)

よつて本件再度の収容継続申請は適法である。

(3)  そこで申請の当否につき判断するに、本人が上記(1)記載の経過をたどつて現に京都医療少年院に在院中であることは記録上明らかであるところ、医師石田博明の診断書、当裁判所調査官の意見書、ならびに審判廷における本人、京都医療少年院長法務技官(前掲医師)石田博明および法務教官大森和子の各陳述等を綜合すると、本人は入院後犯罪的傾向の矯正教育とてんかんの治療を受け、その結果てんかんの発作はほどなく殆んど消滅したけれども、その過程において、言語失調、歩行失調等の余病を併発し、一時体重三五キロに激減するほど衰弱し、最近ようやく四八キロ位のほぼ入院当初の体重に復したものの未だ座業を主とし、最近歩行訓練を始めたばかりであつて、現在、なお歩行に相当困難を感じる有様で到底正常の社会生活を営みえない状況にあることが認められる。

一方退院後の本人の受入態勢については、現在実父は行方不明であり母は再婚して婚家の経済状態も思わしくなく目下のところ本人引取の意思もないことが認められる。ただこれまで音信不通であつた東京在住の兄Tが本人の病気治療の暁には引取りたいとの意向を表明している事実が認められる。

してみれば現在本人の身体に著しい故障があり退院させるには不適当であつて、本人の保護治療の目的を達するには今後なおおよそ六ヵ月程度の収容を継続する必要があるものと認められる。

よつて本件申請は理由があるのでこれを認容することとし、少年院法一一条二項ないし四項、少年審判規則五五条に則り主文のとおり決定する。

(裁判官 梶田寿雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例